【ヤフー記事】Apple WATCHという新たなアップル・ブランドの誕生

ヤフー個人ニュースに寄稿しました 2014年9月10日 16時42分

「Apple WATCHという新たなアップル・ブランドの誕生」
http://bylines.news.yahoo.co.jp/kandatoshiaki/20140910-00038976/

KNNポール神田です。

18金モデルまで登場したApple WATCH
18金モデルまで登場したApple WATCH

今回(2014年9月10日)のスペシャルイベントでなんと言っても注目すべき話題は Apple WATCHだった。

しかし、実際に発表の模様を実況だけを見ていても、Apple WATCHの魅力は、実は伝わっていなかったのかもしれない。その理由は、すべてがテクノロジー×スペックで語られていたからだ。AppleWATCHは、単なるライフログ機能のついた他社のウェアラブル端末の領域とは明確に一線を画していた。

2サイズ6材質6バンドのバリエーションにフェイスが無限大に!
2サイズ6材質6バンドのバリエーションにフェイスが無限大に!

デザイナーであるジョナサン・アイブによるApple WATCH解説ビデオ

http://www.apple.com/jp/watch/films/#film-design

アップルという会社は、創造的な製品をつくるテクノロジー&コンピューティングの企業だ。しかし、このApple WATCHという新たな製品カテゴリーは、今までのPCから始まり、ノートやNewton、QuickTake、iPod、iPhone、Apple TVとも全く違うカテゴリー群の登場である。今までのテクノロジー分野、いやウェアラブル分野という市場を開拓するのとは別分野だった。なぜ、これほどまでに、ファッション業界からスカウトしてきたのかがようやく理解できた。

アップルが狙うテクノロジーではないラグジュアリー市場

アップルの売上規模からすると時計産業の市場というのは、実はそれほど魅力的な市場ではない。しかしだ。アップルは、人間の本来持つ、本質的なファションデマンドに応じる製品カテゴリーというのは持っていなかった。今回はウェアラブルを越えて新たなイノベーションを興そうとしている。

アップルの年間売上は、1709億1000万ドル 、約17兆 910億円(2013年度連結売上)日本のスーパーマーケット産業全体の18兆2587億円(2011年度)に相当する。さらに純利益率は21.7%を誇り、3兆7,037億円だ。日本の清涼飲料市場売上規模(3兆7,000億円)に相当する。

一方、世界の時計産業は、466.5億ドル(4兆6650億円)~600億ドル(6兆円)とも言われる。しかし、全世界の時計産業の売上がアップルの売上の27%から35%の市場である。

スイスの生産する時計の95%は輸出であり、スイスの総輸出売上高218億フラン(2兆4,634億円 1SFR=@113円スイス時計協会)であり、スイス時計産業の売上は、アップルの売上の14.4%の市場規模だ。日本の時計産業は、 6,405億円(2013年日本時計協会)である。

たとえこの全世界の時計市場の10%をアップルが制したとしても、たかだか4,665億から6,000億円の市場だ。アップルの2014年4~6月の第3四半期の売上高は374億ドル(3兆7,400億円)、純利益は77億ドル(7,700億円)なので、四半期のしかも純利益程度の売上規模でしかない。

Apple WATCHの純利益率を50%と見込んでも2,332億円から3,000億円で、売上比率でいうと8%のシェアでしかない。日本の消費税程度のシェアなのだ。

しかし、筆者は、このApple WATCHがもたらす、【腕時計】というメタファーを革新することにこそ、Appleの未来があると確信している。

Apple WATCHは、何万アイテムの組み合わせに、脈拍や体温、GPS位置、ジャイロセンサーという新たな人体テクノロジー市場を形成する可能性と、ラグジュアリーブランド市場という乖離していた世界を融合させた初の製品カテゴリーだからだ。どれだけ機能が満載でも、飯櫃なカメラが搭載されたゴーグルは、警察官のような職業には歓迎されるが、決してファッションで万人がつけたいとは考えないだろう。そこがアップルの狙いだ。普段は普通に見えて、実は機能が満載という機能を隠した美徳がある。

インクリメンタルイノベーション企業からの脱却

アップルという会社は、1976年以来、この約40年の間に、イノベーションとインクリメンタルイノベーション(継続的改善)を繰り返してきた会社だ。新カテゴリーを作り、そのバージョンアップという連続性で成長してきた。

当然、このApple WATCHも、次世代型では、防水機能やiPhone連携なしでも駆動するというインクリメンタルイノベーションは必須であるが、Appleのロゴを配置しただけの製品は初めてのカテゴリーである。

ウォークマンが制していた、テープ、MD、という持ち歩き音楽市場に、MP3プレイヤーが参入した頃に投入した「iPod(2001年)」と近似している。ハードディスクドライブを搭載し、母艦であるMacintoshから持ち歩けるようにしたのだ。iTunesと連動し、翌年にはウィンドゥズバージョンも投入した。Macの市場の拡大だけではなくウォークマン型市場を狙ったのだ。

あれから、14年、2015年には、Apple (アップルロゴ)+ WATCH という、いままでの「i」という冠をはずすことにより、アップルとも呼ばない【アップルロゴ+大文字 普遍化製品】というブランド戦略がはじまる。そのうちロゴマークは発音されずに【WATCH】そのものがApple WATCHを総称するものになるのかもしれない。

スイスの時計産業も、1970年後半にスイスの研究所で生まれたクオーツ時計が、スイスではまったく相手にされず、日本のセイコーが採用したことによって、スイスの時計産業を壊滅に近くまでおとしいれた。1980年代、スイスの時計産業を救ったのは、格安バリエーションをそろえたスウォッチだった。「セカンド(S)ウォッチ」という概念によるイノベーションで「スウォッチグループ」は、ラグジュアリーブランド続々と傘下に収め、もはや世界最大の時計企業体となった。そして、現在では、生産量1%の機械式時計が市場の7割の売上を占めているという特異なマーケットを形成している。月に数十秒も狂う、トゥールビヨンを使用した時計が数千万円もするのだ。

時計というアイテムは、実際の機能よりも、機能をささえて来たストーリーにこそ価値があるのだ。アップルは、クオーツ技術を乗り越え、スウォッチがスイス時計をイノベーションしたように、テクノロジーと新たな時計の概念で、世界の時計という市場だけではなく、「手首」という限り有る人体メディア市場を再定義しようとしているのではないだろうか?

だからこそ、ブランド企業経営陣を多く採用し、【アップルロゴ+大文字 普遍化製品】アイテムを創出し、帽子、カバン、万年筆、靴、アパレル などのインクリメンタルイノベーションを必要としないブランド産業へと踏み出したのである。何十年もの間、親から子供へと継承されるようなブランドヒストリーが持てる企業への脱却なのだ。2年ごとに買い換えられない会社になることこそが、アップルの真のインクリメンタル・イノベーションだったのだ。

「WATCH」というウェアラブルとも親和性の高いカテゴリーから、新たなアップルというラグジュアリーブランドを形成していくというのは、成熟してきたデジタルガジェット企業からの卒業を意味しているのかもしれない。

デジタルクラウンという竜頭の課題

Apple Watchのブレークスルーは側面のダイヤル竜頭(デジタルクラウン)と、TAPTIC ENGINEとS1プロセッサ

だ。デジタルクラウンというデジタルの竜頭は、人類が長年親しんできたインタフェースだ。

1879年、ドイツ皇帝のヴィルヘルム1世がドイツ海軍用としてジラール・ペルゴに量産させてから135年もの竜頭の歴史がある。

ジラールペルゴの竜頭のついた初の腕時計から135年
ジラールペルゴの竜頭のついた初の腕時計から135年

しかし、時計の竜頭という機能は、非日常なインタフェースである。左腕(あるいは右手)に装着した状態で日常的に使いたくなるものではない。実際にアップルのデモンストレーションでは、時計のリストバンドを外した状態で操作されていたほどだ。

デジタルクラウンが本当に使いやすいものかどうかは気になるところだ。例えば、テレビのリモコンは気に入っている状態では誰も触らず、気に入らないことが多い時に手にするという代物であるからだ。時計でいうところの竜頭も同じで、気に入っている状態では、触りたくないファンクションであり、Apple WATCHの提唱するデジタルクラウンで操作するというUIに関しては実際に触ってみるまで、否定的な印象を持たざるをえない。

WATCHをはめたままでの竜頭の操作性が気になる
WATCHをはめたままでの竜頭の操作性が気になる

しかし、TAPTIC ENGINEとS1プロセッサというユニットは、人間の左手や音声、ジャイロによる傾きやGPSによる移動データを記録し、タッチしているのか押しているのかもフェイス部分のセンサーで認識する。そしてそのAPIを公開することにより、サードパーティーから無限大のアプリが提供されるのだ。Appleというブランドの力学から、人体センサーにおけるプラットフォームを形成することだろう。そして、Google Android陣営ができないことは、それらのセンサーが量産されればされるほどコストは安くなり、他の企業が参入できな限界コストに近づくということだ。同じようなパフォーマンスを生み出せてもハードウェアメーカーでないGoogleにはあくまでもOSを無償提供というビジネスモデルであるがゆえに、総合的にブランドを管理することも不可能なのだ。

Appleは今回、349ドルという価格を発表したが、これはあくまでもスタートラインの価格であり、最低価格と考えるべきであろう。材質やバンドだけでも数十万円のApple WATCHになる可能性が高い。今後は、材質が変わることにより、数百万円というモデルさえも毎年発表するかもしれない。

スイスのバーゼルで開催される「バーゼルフェア」では、おそらくアップルが最大規模のブースを構えることであろう。

簡単に装着できるリストバンド部分のコネクティング部分もアップルにとっては、戦略的なパーツになることだろう。簡単に着脱できるとすると、いろんなリストバンド素材となるだろうし、ロイヤリティを派生させることもできる。

高級機械式時計のフェイスアプリを搭載することも可能だろうが、老舗ブランドは乗ってこないだろう。むしろ、現在、高価な機械式時計でも自社製ムーブメントを作っているところは少ない。そういう意味では、アップルが、時計のムーブメント=駆動部品をもたないムーブメントメーカーとして、機械式時計のサブブランドとしての展開も考えら。しかし、これはGoogleのAndroid戦略としては有効かもしれない。Appleの場合、自社がブランドにならなければ意味がない。Googleは自社がブランドである必要がないからだ。この違いは大きい。

外装だけでも200万通りの組み合わせ
外装だけでも200万通りの組み合わせ

数兆通りになる組み合わせこそがキラー

AppleのサイトでApple WATCHに関する素材やブレスレットの話題を見ているうちに想像力はふくらんでくる。

むしろ、陳腐化するテクノロジーの紹介よりも陳腐化しない素材やアイテムが気になるのだ(笑)

Apple WATCH Design

http://www.apple.com/jp/watch/design/

それは時計愛好家が愛してやまない、自分ならではのカスタマイズした商品を選択できることだ。

ロレックスのデイトナだけでも、材質や宝飾、リストバンドの種類を選ぶだけで数百アイテムになる。

しかし、Apple WATCHは、その組み合わせは数兆通りの中から選択することになるだろう。誰ひとりとして同じアプリをインストールしたiPhoneを持っていないのと同様のことが実現されるからだ。

フェイスのアプリ以外だけでもこれだけの選択肢がある時計は、今まで存在していなかったのだ。アップルストアだけでは対応できず Apple WATCH Storeが必要となることだろう。また、アップル認定の時計店という高級店も可能だ。30万円以上のApple WATCHがズラリと並ぶみたいな構図もあるかもしれない。

ぜひ、サイトで時計ファンにも、このラインナップを確認いただきたい。

サイズ 2種類

38mmと42mm

材質 6種類

ステンレススチールのカスタムアロイ

シルバーアルミニウム

スペースブラックステンレススチール ダイヤモンドライクカーボン(DLC)をコーティング

スペースグレイアルミニウム

18Kイエローゴールド

18Kローズゴールド

バンド 6種類

リンクブレスレット

スポーツバンド

レザーループ

クラシックバックル

モダンバックル

ミラネーゼループ

フェイス

数百万種類

3つのアップルコレクション

Apple WATCH

サファイアクリスタル 冷間鍛造ステンレススチール 316Lステンレススチール

3種類のレザーバンドから選択

リンクブレスレット、ミラネーゼループ、高性能のフルオロエラストマー製

Apple WATCH SPORTS

シルバーまたはスペースグレイの酸化皮膜処理された軽量アルミニウム 7000シリーズアルミニウム

IonXガラス アルミノケイ酸ガラス

フルオロエラストマー製のバンドは、5色

Apple WATCH EDITION

Editionコレクションの6モデル

サファイアクリスタル

価格は349ドルから 2015年初旬の発売予定