企業のウェブサイトにおける危機管理 参天製薬と雪印の対応 2000年(平成12年)

2014年、ペヤングや日清食品の危機管理を見て、14年前のことを想い出した。
基本的にウェブサイトにおける危機管理は、迅速にアクションを興し、緻密に真摯にウェブで報告することにつきる。しかし、不祥事におけるウェブの活用はあまり進化していないことにも驚ろく。

今回のペヤングも日清食品も「ゴキブリ」という最悪のイメージを払拭しなければならない。
「ペヤング異物混入今後の対応」
http://bylines.news.yahoo.co.jp/kandatoshiaki/20141212-00041448/

2000年(平成12年) 6月

グリコ、狂牛病、カイワレ大根、毒入りカレー、所沢ダイオキシン野菜、参天製薬、雪印牛乳、森永、そして山崎パン、神戸市コープ…。入れかわりたちかわり、いろんな事件が世の中で起きている。また、このところ、食品・薬品企業の事件、不祥事からデマにいたるまで、さまざまな事象が相次いで連鎖的に起きている。

インターネットがなかった頃には、マスメディアの報道にリリースを流すしかできなかったのが、Webの登場によって、食品・薬品企業はWebを通じて、顧客とより密接にコミュニケートできるようになった。Webサイトは、企業にとって万一の時に威力を発揮する「打出の小槌」のようなメディアとなりつつある。

本日は参天製薬と雪印乳業のウエブサイトの事故対応を比較してみたい。

まずは、参天製薬の場合
http://www.santen.co.jp

6/15日 事件発生後1日目
http://www.santen.co.jp/news/seihin_kaisyu.html

「経緯のご説明
平成12年6月14日(水)、脅迫文と異物を混入したと称する当社一
般用目薬一個を同封した郵便物が当社宛に郵送されてまいりまし
た。脅迫文は、「当社にたいして金銭的要求を行い、それに応じ
ない場合は、当社製品に薬物を混入したものを、店頭に置く」と
の内容です。
当社と致しましては、消費者の方の安全を最優先と考え、一般用
目薬の全製品について回収を行うことを決定いたしました。
(中略)回収作業は即日実施いたしますが、回収を完了するには、
一定期間を要することが予測されますので、その間店頭に残って
おります参天製薬一般用目薬につきましては、ご購入されません
ようにお願い申し上げます」

※郵送されてから24時間以内に、製品の回収とWebでの対応を行っています。しかも購入しない旨まで明記しています。HTMLソースを見る限り”Adobe PageMill 3.0J Mac”というところからも社内で内制していることが伺える。

6/17日 事件発生後3日目
http://www.santen.co.jp/news/0617jokyo.html

「6月15日(木)夕刻より、全国の代理店、小売店本部にFAX、電
話、訪問により連絡させて頂き、撤去・回収の依頼を完了致しま
した。全国約7万店の全薬局・薬店にも、直接または代理店を通
じて、同様に撤去・回収の依頼をほぼ完了しております。
(中略)薬局・薬店の店頭からの撤去は、6月17日(土)中にほぼ
100%完了の見込です(代表取締役社長森田 隆和)」。

※事件発生後3日目にして、社長の名前で、撤去100%の見込みの報告をWebで実現している。さらに1800件の問い合わせがあった事を明確に広報し、さらに異物混入のない新包装の仕様を決定し、翌週より作業に入ることを告知している。

6/28日 事件発生後14日目
http://www.santen.co.jp/news2/2000/000628.html

参天製薬一般用目薬の生産再開のご案内
新包装は、これまでの製品と簡単に区別することができます。
なお、新包装のこれまでの製品との違いは、次の3点です。
1.「ひとみ・すこやかラッピング」と印刷した透明フィルムで
シュリンク(熱収縮) ラッピングしています。
2. 「外側を透明フィルムでラッピングしています」と箱に表示
しています。
3. 開封はフィルムの上から押し開けていただくことができます。

※プレスリリースとして、7月4日(火)から生産を再開している。

実に見事な対応だ。マスメディアに露出された回数、報道に対する企業姿勢とともに、何十億円にも相当する広報効果があったのではないでしょうか?万一”狂言”による広報戦略であったとしても評価できると思う。そんな”リスキー”な事をするとは、思えないが…とにかく見事な企業対応はWebにもあらわれている。

そしてこちらは、雪印乳業だ。
http://www.snowbrand.co.jp/

06/30日 事件(事故?)発生後2日目(HTML文書の名前から推測す
ると3日目07012000.htm)

雪印低脂肪乳による下痢等の異常事故発生について
「お客様各位
6月27日から28日にかけて、弊社への苦情3件、該当地区保健所への
苦情4件が発生致しました。(中略)尚、被害を受けられた皆様へ
は誠意を持って対応させていただきますと共に、原因の究明に全力
を投じて参る所存でありますので、宜しくご理解の程お願い申し上
げます」。

※事実の発表はあるが、謝罪文の掲載はなし。誠意を持った対応と理解をお願いするのみ。

07/01日事件発生後3日目(HTML文書の名前から推測すると4日目
07022300.htm)

「雪印低脂肪乳」による下痢等の症状について
黄色ブドウ状球菌が産生する毒素(エンテロトキシン)によるもの
と考えられます。この毒素(エンテロトキシン)は食べてから、お
よそ3時間程度で嘔吐や下痢を引き起こしますが、38℃以上の高熱
を伴うことは少ないとされています。治療法としては、下痢が激し
く、脱水症状を伴う場合は輸液を行うケースがあります。尚、各症
状の持続時間は数時間程度で、ほとんどが24時間以内に回復すると
言われています。

※下痢をだした方へのお詫びかと思えば、24時間以内に回復するという無神経なコメント。

07/03日 事件発生後5日目(HTML文書の名前から推測すると5日目
07032100.htmようやく時世が一致する)

「投資家のみなさまへ
尚、数多くのお客様が被害にあわれている事態となっておりますこ
とを厳粛にうけとめ、関係の皆様に多大なご迷惑とご心配をおかけ
致しておりますことを改めて深くお詫び申し上げます」。

※はじめてお詫びの言葉が掲載された。しかし、相手先は「投資家のみなさまへ」どうしてここまで無神経さが継続されるのだろうか?

07/04日 事件発生後6日目

「今回のあってはならない不祥事に関しまして、食を通じて健康を
お送りすべき企業としての大きな社会的責任を痛感しております。
また、お客様に対する数度にわたる情報の開示も、弊社の不手際に
より、あいまいな印象を与える結果となったことも、深くお詫び申
し上げます(中略)大阪工場の全商品について回収することを決断
致しました」。
※はじめてお詫びの言葉がお客様あてに掲載される。発生後6日目
である。しかし、対象回収品は大阪工場の全商品のみ。

07/06日 事件発生後8日目

「お客様各位 お詫びただいま、私は事態の収拾に全力をあげてい
るところですが、混乱の責任をとって本日辞任を決意致しました。
また、後任については、東日本支社長常務取締役  西 紘平と
いたします。同時に
生産技術本部長専務取締役   赤羽 要
第二事業本部長専務取締役   相馬 弘
市乳生産部長取締役   千葉 正兄
も辞意を表明致しました。その他の賞罰については、後日本件が
解決された段階で出来るだけ速やかにと思っております」。

※事態の収拾に全力をあげている最中に取締役が責任を取ってやめる…。やめて混乱の事態の責任がとれるのだろうか?

07/08日 事件発生後10日目

「お客様各位 静岡工場製造休止について7月6日 弊社静岡工場に
静岡市保健所の立ち入り検査があり、洗浄記録がないため、製品の
安全性を確認できないため、当所による検査結果により安全が確認
されるまでの間、上記タンク等の使用自粛をするよう指導を受けま
した。7月7日製造分は出荷止めとし、7月8日より当工場の製造を
全面休止いたしました」。

※保健所の立ち入り検査があってようやく静岡工場を休止。

7/17日 事件発生後16日目

現在、全国20ヵ所の市乳工場では、7月12日(水以降、順次操業を
停止しております。この20ヵ所の工場はすべて、各保健所により
安全性が確認されております。今後はさらに当社が厚生省に提出
しているHACCPプランの「第三者機関」による点検・見直しを行って
まいります。

※事件発生後、半月かかって、ようやく順次操業の停止に動き始めた。

渦中の雪印乳業のサイトですが、Webでも質問を受け付けている。そこで、Webについて質問してきた回答を元に企業のWebでの対応を考える機会になればと思い、質問は、ジャーナリストを名乗った上で、「何名の方が現在この雪印のWebに携わっておられるのでしょうか?」

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SUBJECT 【頂いたご質問に対して回答】
神田様頂いたご質問に対して回答いたします。私どもはこの件が発生
してから、本社市乳営業部の6~10名を中心に総勢900名の社員で対応
させていただいております。皆様方には大変なご迷惑をおかけしてお
りますが、これを真摯に受け止め、品質管理向上につとめたいと考え
ております。 雪印乳業株式会社*

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この大変な時期にこのような質問を送るのは、非常に失礼な事かと思うのだが、Webサイトの対応がよければ企業としても、何100名もの動員と同じだけの効果があるものと考えられる。FAQなどの回答を準備できる期間も十分あっただろう。メディアからの質問に対しても十分な対応ができるはずであったにも関わらず、たった5行の説明のみで、こちらの質問に対しての答になっていません。

KNNとしては、雪印のがんばっている姿を発見しようと努力しているのだが、見つけられない歯がゆさで一杯。もしも、社長が「何日も寝ていない」などの発言に対しても、早急に闘う広報チームがいたとしたら、対応できるWebができたはずだ。
現在、雪印乳業のサイトでは、最低限の情報しか公開されていないが、ノンキな日常ページでないところ
だけは、とりあえず評価はできる。本当は、もっともっと大企業病に汚染されている企業のほうが日本の中では大半でしょう。この度重なるマスメディアのアラ探しの中では、雪印乳業は、もっとWebで真摯な態度を表現すべきだった。残念で仕方がない。ウェブサイトは企業の存続をわけるとも考えられる。

今回のこの雪印の事故は、氷山の一角にしかすぎない。
何千万ものブランドイクイティ-が崩れ去る現場を我々は目撃している。そして、第2、第3の雪印になる企業の可能性は多く潜んでいる。数多く、ウエブサイトを制作する会社は多いが、不祥事や事件に巻き込まれた時の緊急対策までふまえて提案できるウェブ制作会社は希有なのではないだろうか?

単にデザインだけのウェブサイトの時代は終焉を遂げ、開発やバックエンドのプログラムでECを支援するサイトの時代へと変革してきた。それと同時に企業の万一の時の情報発信手段であるウェブサイトをいかに構築しておくかは企業サイトにとって重大な命題である。

特に口にしたり、体に影響がある会社であればあるほど…。また、最近の震度の多さのことからも最悪の事態を想定してのサイト、支援対策を食品や薬品メーカーは至急に構築しておくことが必要だ。