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孫泰蔵氏が語る『孫正義論』 孫正義と同じDNAを持つ男からの視点

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「ARM買収で人類の未来に関われる」、ソフトバンク孫氏がロンドンで語る

http://k-tai.watch.impress.co.jp/img/ktw/docs/1010/773/html/01.jpg.html

『孫正義論』 孫泰蔵 facebookより

僕の関係する事業に関して、ソフトバンクや孫正義との資本関係がまったくなくなったことと、今回のARM買収の件にまったく関知していないことなどから、これを機に孫正義論について語ってみようと思う。
孫正義といえば「現代日本を代表する起業家」と評されることもあるが、一方で「事業家とは名ばかりの博打打ちの投資家」のように揶揄されることも多いという気がするのは僕だけだろうか(笑)果たして彼の本質はどうなのだろう。

たしかに彼は大型買収を続けてきた。1995年にIT展示会最大手だったコムデックスと最大手メディアのジフ・デービスを合計3,000億円で買収して以来(当時のソフトバンクの時価総額が2,000億円だからその額は驚異的。ちなみに孫正義は当時38歳)、ボーダフォン・ジャパン(約2兆円(180億ドル))、スプリント(約2兆円(180億ドル))、そしてこのたびのARM(約3.3兆円(296億9999万9999ドル))と巨額の買収を繰り返している。

また、ベンチャー投資も累計で約0.4兆円(35億9999万9999ドル)の投資に対して、10.6兆円(954億ドル)のリターンを平均9年で得ており、そのリターンの絶対額もさることながら45%というIRR(内部収益率)も、VCとして見てもすさまじいパフォーマンスを出している。

しかし一方で彼は、これまで15年以上、通信事業者として光ファイバーでフルIPのバックボーンを日本全国に自ら張り巡らせ、ルーターとハブとTAを統合した機器を開発して、ラストワンマイルをADSLとWi-Fiでブロードバンド化すると同時に世界で初めてVoIPを商用化させ、その後はAppleとともに率先して3G、LTEのモバイルブロードバンドインターネットを推進してきたインターネットインフラの開発者・普及推進者でもあるのだ(彼自身が発明者として取得した特許も100はくだらないそうだ)。

さらにはその間に、ヤフージャパンやアリババ、スーパーセルなどを通じてアプリケーションとしての検索エンジンやEコマース、デジタルコンテンツプラットフォームなどを成長させたインターネット・ビジネスの一流の経営者でもある。

その過程で、彼はITに関する非常に広範な知識と人脈を獲得していった。彼と話をするとわかよくわかるのだが、通信はもちろんOSからアプリケーション、放送・通信機器や家電などのハードウェアから半導体に至るまで、そんじょそこらのどんなエンジニアにも負けないアーキテクチャに関する最新知識を持っていて驚きを禁じ得ない。こちらも最新知識だけでは絶対に負けたくない、と思って必死に勉強していても、それをさらに上回る知識と見識を常に持っていて、いつも脱帽させられた(少しでも差を縮めようとしているのに、いつも引き離された感じがして本当に悔しい)。

なにせ、その道のトップの会社のCEOやCTOから最新技術について直接レクチャーを受け続けているので、どこの技術メディアや技術解説本にも載っていないようなことをいつも教えてもらうばかりであった(最後には「お前はそんなことも知らんのか。お前もまだまだやのう」が口癖。腹立つ(笑))

さらにどんなエンジニアでも絶対に彼にかなわないのは、それらのテクノロジーのBOM(製造原価)やライセンスロイヤリティーについて全部知っていること。これは外部で調べても絶対に把握することは不可能な情報で、共同で技術開発をしているとか、大量に購入する取引があるとか、直接事業上の関係がないと絶対につかめないもので、これだけは他の追随を許さないテクノロジーの評価者としての彼の最大の強みである。

テクノロジーについて技術的価値と経済的価値の両方をもって未来を予測できること。これだけは世界の誰も逆立ちしても彼の右に出る者はそうそういないわけで、その意味では彼はたしかに「世界最強のベンチャーキャピタリスト」と言っても過言ではない。ある方が「孫正義はもはや事業会社の社長ではなくVCファンドのパートナーのよう」とおっしゃっていたのだが、それは半分大間違いで、半分大正解なのだ。
 
 
そういう彼を時々傍で見させてもらって、「ああ、こりゃあ、かなわないな」と僕は正直思った。だいぶ早期に。彼と同じやり方で追随しても、彼が絶対的に先行しているうえに、そもそもそれを実行するのは能力的に非常に困難だと思った。また、このやり方は、甚だおこがましいが、自分には向いていないとも思った。

ここでいう「彼のやり方」とは、①まずキャッシュカウ(金のなる木)となる自分のコアの事業を作り上げたうえで、②そのコア事業の自然な成長(「オーガニック・グロース(orgnic growth)」という)を超える事業目標と戦略を打ち立て(そこに実現可能性を考慮するロジックはなく、とにかく「いつまでに、これだけ」と大目標を打ち立てる)、③その戦略に資する買収候補を探して継続的にコミュニケーションをはかり、④非買収先がM&A検討可能と見るや、創造した信用を目一杯駆使して引き出した融資をテコに買収をし、⑤連結することを通じて戦略遂行のスピードを加速させる、というやり方だ。

僕は、とにかく自己疎外を生み出す大企業の分業制度が生理的に嫌いなので、ひとつの企業体に連結していくのにすごく抵抗がある。企業というのは小さいほど良い「Less is more.」という考え方が好きなので、お互いが一緒になりたいという相思相愛の場合を除いて、企業をできるだけ連結しないようにしている(自分で言うのもなんですが、仮に自分が出資している企業を連結したらなかなかの規模になるのですが、それがどうした、という感じで連結会計上金額規模が大きな会社をつくることにまったく興味がなくなってしまいました。若かりし昔はちょっとだけ憧れたこともありましたが)。

僕の志向するやり方というのは、連結して財務的に大きなパワーを持っているということで人々を元気づけてダイナミックな力を発揮させるのではなく、一つ一つの企業体をできるだけ小さく保つことで生命力を最大限に引き上げ、企業体の「群れ」でイノベーションをコレクティブに加速させていくというやり方だ(まだ確立できていないので説明が抽象的なのはご愛嬌(笑))。

おそらくモデル確立に至るヒントは、「企業体」よりもさらに小さな「個人」に着目し、元気な個人の「共同体」を作っていくことで活力を高めるというやり方にありそうだという予感はしているのだが、まだその形を確立するには至っていない。

ともあれ、それなりにどちらのモデルも経験してきた自分としては、どちらのモデルが優れてるとは一概に言えないと現在は思う。しかし「M&Aにより戦略遂行の時間を買う」モデルの極北をいく「孫正義式」を傍で見て、そのモデルの最高のエクセレンスを吟味させてもらうことによって、逆にそのモデルとは違う「孫泰蔵式」とでもいうものを確立していけたらなあと思う。
もしそれをうまくモデルとして確立できたその果てに、彼から「お前もなかなかやるな」と言われたら、孫正義の文脈を受け継ぐ後輩の起業家としては最高だな。

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