キャンディス・スワンポール
Candice Swanepoel
ヴィクトリアズ・シークレットの初のロンドンでのショーが2014/12/03に開催された。
https://www.victoriassecret.com/fashion-show
https://www.victoriassecret.com/
https://www.youtube.com/watch?v=02lX3lzc8Qw
アメリカのリミテッド・ブランズ社の傘下のリテールブランドで、婦人服・下着・香水・美容用品などを扱っている。
売上高50億ドル(5,000億円)、および10億ドル(1,000億円)の営業利益はグループ内最大である。
そもそも、なぜ、今頃、ヴィクトリアズ・シークレットがロンドンでファッションショーなのかという理由は日本にいるとわかりにくい。
それは、ヨーロッパのランジェリー文化をアメリカに取り入れ、ファッションショーと通販をショー化するところで、ヴィクトリアズ・シークレットは、業績を伸ばしてきた。
いわば、TGC(Tokyo Girs Collection)の先生といったところだ。
そのアメリカで根付いた文化を、ヨーロッパのロンドンという歴史もある場所でショーを開催するというのは、オリジナルな場所へアメリカのコピーが勝負を挑むといった構造なのだ。
シアトルのスターバックスが、イタリアのミラノのバールに挑戦するようなものとも言えるだろう。
どちらが本物ではなく、新たなアメリカ文化として、伝統的なものとは違って受け入れられるのではないだろうか?
ヨーロッパのランジェリーショップは、大人のおもちゃや媚薬や、アイスクリームなども一緒に販売したりなどで、下着屋ではなく、夜のロマンスを販売しているからだ。
少なくとも、ヴィクトリアズ・シークレット以前は、下着ショーというと、ワコールが何度も塚本初代社長時代から、チャレンジしているが、キワモノ扱いだった。
しかし、ヴィクトリアズ・シークレットは、アメリカのショービジネスの中でも、ファッション・ショウビズとして、広い世代に認知されている。
なので、英国での初のファッションショーは、ヴィクトリアシークレットにとって、いや、リミテッド・ブランズ社にとっても、とても重要な足がかりとなったはずだ。
リミテッド・ブランズ社の会社概要
(2005年度)
また、部門別(店舗業態別)の店舗数と売上高は次の通りです。
昔、リミテッド・ブランズ社とギャップ社は、アパレル部門で覇権を争う2大企業でした。しかし、リミテッド・ブランズ社の売上高の1兆1,639億円のうち、アパレルの売上高は26%の3,026億円に対し、ギャップ社は売上高1兆9,228億円(純利益1,336億円)のうち、100%がアパレルの売上高(ギャップ8,653億円、オールドネイビー7,883億円、バナナリパブリック2,500億円、その他192億円)です。リミテッド・ブランズ社のアパレル部門は完全に衰退し、一時は12の部門を持つ強力なアパレル専門店でしたが、1993年、1995年、2000年と続けざまにリストラを行い、今や、非アパレル部門である下着(ヴィクトリアズ・シークレット)とトイレタリー(バス&ボディワークス)の2つの柱が売上の68%を占める企業になっています。本来ならば、アパレルだけであれば倒産しても不思議ではない企業内容でしたが、2人の孝行息子(ヴィクトリアズ・シークレットとバス&ボディワークス)によって会社は成り立っています。
(1)2人の孝行息子
①ヴィクトリアズ・シークレット(店舗数1,001店、売上高5,238億円)
アメリカの女性は、開拓時代のなごり(?)からか、寝間着や下着を身につけるのを常にしているのに対して、ヨーロッパの女性はランジェリーを身につけていました。そこで、リミテッド・ブランズ社(当時の社長ウェスナー)は、「質が高く、洗練され、あこがれ心をくすぐるランジェリーを、女性的でゆったりと買い物が出来る環境の中で提供すれば、アメリカ女性もヨーロッパ女性と同様に特別な日に限らずランジェリーを日常的に身につけたくなるだろう」と考えました。当時のランジェリー市場は、超高級ブランドと量産ブランドの2極化が進んでおり、感性は超高級ブランド並、価格は超高級ブランドと量産ブランドの中間に設定し、下着業界でのアフォーダブル・ラグジュアリー(ちょっと贅沢したい商品・手の届く範囲内の贅沢)として、日常の中の”新”(いつも使っている顕在化しているニーズの中で、新しさや変化を求めるニーズ)のエアポケットマーケット(空白マーケット)をビジネス化しました。
「ヴィクトリアズ・シークレットは、店舗でうっとりする魅力や高級感へのあこがれ心を満たし、かつ、入りやすく親しみを感じやすい女性らしい環境にすることで、現状のアメリカの下着市場を進化させ、買い物を特別な体験に変えています。また、ヴィクトリアズ・シークレットは、ヨーロッパのランジェリーに着想を得た美しい製品を、最高の生地と縫製技術で製造し、大半の女性の手の届く価格で提供しています。そして、鮮やかな色と独自の柄を採用し、新製品を他のファッション・カテゴリーの最新流行と連動させています。また、店舗も魅力的な内装やディスプレーにして、ロマンチックで新しい環境をつくり、顧客の心理面に訴えました」(ヴィクトリアズ・シークレットの表現については、「なぜ高くても買ってしまうのか」ダイヤモンド社 を参考にさせていただきました。)
まさに、ヴィクトリアズ・シークレットは、下着市場で今までにない新しいマーケットを独自の千里眼で見抜き、客の心理面と独自のデザイン及び精度の高い製造技術によってビジネスモデル化し、今も、下着業界では敵の参入を許さない参入障壁の高い分野を確立しています。ヴィクトリアズ・シークレットは、「ニーズ・ビジネス」を「ウォンツ・ビジネス」に変えた世界で最も成功した専門小売店と言われています。
②バス&ボディワークス(店舗数1,569店、2,677億円)
リミテッド・ブランズ社の2人目の孝行息子は、トイレタリー業界№1のバス&ボディワークスです。
バス&ボディワークスは、「明るい色彩と強い香りを特徴とし、ドラッグストアと百貨店の中間の価格帯 の女性用ボディケア商品及びパーソナルケア商品の店です。ハートランド(アメリカの伝統的な農業地帯)の農場からの直送をキャッチフレーズに、フルーツや花の香りの石鹸、クリーム、ローション、スクラブ洗顔料、オイル、バター、ジェル、フレグランス・キャンドルやインテリア装飾品を扱う店」です。
バス&ボディワークスは1990年代に飛躍的に成長しましたが、2000年になってからは、セフォラ、アヴェダ、オリジンズなどの競争相手が現れ、一時は苦戦をした時期もありました。しかし今は、バス&ボディワークスは、これまでの楽しさと香りを追求する表面的な対症療法を提供していた姿勢から、「最も美しく年をとる女性は、まず、自分の内面性を大事にし、その後で外面的な美しさを気にかける女性である」ことを千里眼で見抜き、新たな視点でスタートして成功を納めています。
バス&ボディワークスは再生計画において、「年齢を重ねることへの不安、いつまでも若く見られたいという欲求」は、美容製品への価値計算を永遠に支配する要因であることに気付きました。ところが、従来のバス&ボディワークスの解決策は、年齢を隠し、うわべだけ若く見せることでした。だが、美しさはどのように感じ、どんな生活を送るかによって決まります。外見はその結果なのです。どのように感じるかは、十分な睡眠と幸せで充実した一日と精神のあり方によって決まります。どんな生活を送るのかは家庭や日課、くつろげる瞬間によって決まります。バス&ボディワークスは表面的な対症療法ではなく、内面と外面の美しさをともに追求することにしました。最も美しく年をとる女性は、自分の内面性をまず大事にし、その後で外面的な美しさを気にかけると考え、新しいコンセプトにしました。その結果、バス&ボディワークスは順調に業績を回復し成長しています(バス&ボディワークスの表現については、「なぜ安くても売れないのか」〈ダイヤモンド社〉を参考にさせていただきました)。
バス&ボディワークスは、トイレタリー市場で、今までにない新しいマーケットを独自の千里眼で見抜き、美とは何かを追求し、それをビジネスモデル化して、第1段階(1990年代)の成功・大発展と第2段階(2000年代)の再生・進化への道を着実に進んでいます。
(2)3人の孝行娘
ヴィクトリアズ・シークレットとバス&ボディワークスは、リミテッド・ブランズ社内で貢献している部門であるため孝行息子と名付けました。
実は、2人の孝行息子以外に、外に嫁いだ3人の孝行娘がいるのです。ここでの嫁ぐとは、優良な業績を上げているのに、リミテッド・ブランズ社の本体を守るために売却又は上場して別の会社になった事を意味します。
①ギャルヤンズ(スポーツメガストアの新御三家の店)
リミテッド社(旧)が、スポーツ業界に進出して、ファッション性の高いスポーツメガストアと呼ばれたのがギャルヤンズです。バスプロショップス(マリンスポーツ&アウトドアに強いメガストア)、REI(マウンテンスポーツ&アウトドアに強いスポーツメガストア)と共に、スポーツ業界の新御三家でしたが、大発展中にディックスに売却(嫁に出した)されました。
②アバクロンビ&フィッチ(カレッジファッションの№1人気の店)
カレッジファッション業界で、独特の雰囲気とトレンド性の高い商品で人気のあるアバクロンビ&フィッチも、リミテッド社(旧)が大発展中に上場してスピンオフ(嫁に出した)した専門店です。
③リミテッド・トゥー
大人の感性でトレンド性を持ち、子供が自分の感覚で買う女児業態のリミテッド・トゥーも上場してスピンオフ(嫁に出した)した専門店です。
このようにリミテッド・ブランズ社は、苦悩しつつ、しかし新しい企業への再生を模索しています。
「リミテッドの苦悩と2人の孝行息子及び3人の孝行娘」
http://www.muguruma-ryuken.jp/scshindan-limited.htm