発売日、初日に買い求め用とすると、すでに売り切れ…。都内の書店のほぼランキングトップを独占。
ようやく読むことができた。
日本人すべての人が知っていて、逃亡の断片情報のみで不可思議だったあの事件の手記。
「逮捕されるまで 空白の2年7カ月の記録」は、想像を絶する逃亡のノウハウが凝縮された一冊だ。
2年7ヶ月の逃亡のジャーナル。あと3ヶ月で時効という寸前での逮捕。
冒頭から、まるで映画のような逃亡シーンが続く。
自ら自分の鼻を縫って小さくする、整形手術を施すなど、それらの行為が淡々と記述されている。
そこまでして、逃げようとする市橋達也の逃亡のロジックに、読者は、引きこまれ、読み進めるうちに、まるで自分が逃亡している市橋達也と同じ視点のリアリティに立ってしまう。
公共交通機関でのリスク、指名手配された自分の顔…。
まるで、映画の「逃亡者」のリチャード・キンブルのようなものだ。しかし、現実社会では、キンブルとは違い、人とまったく触れ合うことを拒絶した、社会の中での自己自身とだけの対峙の2年7ヶ月もの日々。
自分だったら、ここまでサバイバルな逃亡ができるのか?完全にあきらめて自首したほうが、はるかに楽であり、罪の重さもストレスも軽減されたはずだ。
そこまでして、逃げる彼の理由は何だ?それは、きっと、究極的なまでの自己愛だろうと分析する。
また、彼の自己愛やプライドがあったからこそ、ここまでの逃亡を可能にしたのだろう。
逃亡しながらも、100万円相当を肉体作業で稼ぎ、それを、整形手術につぎ込む。
働いたことのなかった、しかも指名手配中の市橋達也でも、そこまでできることを、無職の自宅警備の人や自殺に身を投じる人に、ぜひ一読を勧めたくなる。
テレビに登場する、犯罪専門のプロファイラーのプロファイリングの的外れぶりと、新宿2丁目で男娼として、潜伏していた報道に対し、市橋達也が憤慨している場面に、彼のプライドの高さと、同時にマスメディアのプライドの低さを対照的に見ることができる。
ボクたちが、テレビや雑誌から市橋に関する得られていた情報は、まったくのガセであったようだ。
遺族の方には、大変に申し訳ないが、映画としてのヴィジュアルで観たいと思った手記であった。
しかし、肝心の、殺害動機にいたるところは、一切記述がない。
幻冬舎さんのこと、きっと、第2弾があることだろう。
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