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ピーター・ジャクソンの「キングコング」を初日に見た。オールナイトなのに、残念ながら観客席はまばらであった。
渋谷の街は週末の深夜、若者で溢れているにもかかわらず、しかもレイトショーなので入場料は1800円が1200円であるのに…。
「ロード・オブ・ザ・リング」のピーター・ジャクソンがメガホンを取ったこともあり、期待したい気持ちと、あまりに期待し過ぎないようにと、自制しながらボクはシートについた。
世界恐慌時の1933年制作のオリジナル「キングコング」とまったく同じ設定である。タイトルロゴから、斬新なCGによるオープニングで始まるのではなく、シンプルなアールデコ調のタイトルから始まる。「アビエイター」のオープニングなどと共通している。なぜか、この時代感が、ハイテクがなかった頃のいい時代に見えてくるものだ。
「ゴジラ」などにも共通するように、モンスターが登場するまでの演出がモンスター映画には、とても重要だとボクは思う。ピーター・ジャクソンは、登場人物を丁寧に描き、船に乗り込むまでに、すでにそれぞれのキャラクターに観客の感情を移入させる。
さすがに、ロード・オブ・ザ・リングでの、多数のキャラクターを描かすと、この監督は非常に冴えてくる。
ジャクソン監督が、9才の時にオリジナルの「キング・コング」を見たときに映画監督になると決断したそうだ。純粋にこの映画を見ても、いくつかの少年少女がこの映画のスケールを元に未来の監督を目指してもらいたいものである。
さて、ここから先はネタバレ注意を覚悟して読んでいただきたい。
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前半は、「戦場のピアニスト」のエイドリアン・ブロディと、ヒロインのナオミ・ワッツの恋の芽生えが描かれ、どことなく「タイタニック」を彷彿させる。恋に落ちていく瞬間がよくわかる…。そして、霧にまみれた中、船は座礁しかかって目的地の島へ難着。
船長の反対を押し切り、映画クルーたちは島の中へ…。そこで待ち受けたものは…。
このあたりからは、もう「ロード・オブ・ザ・リング」のCGの世界となっている。どうしても、CGだらけの世界にはちょっと食傷気味だ。
そこにはじめてキングコングが登場する。CGと思っても、かつてのジェシカ・ラング主演の頃のアナログの「キングコング(1976)」とはかなり動きが違う。どう猛な野生の主としての描き方に恐怖感さえ覚える。
そこからは、キングコングとの恋が始まるのだが、かなりコングの愛情表現はハードである。少し触っただけで、かなりの力が加わるから大変だ。ナオミ・ワッツよりも見ているこちらの方が首が痛くなるような感じだ。
ジェシカ・ラングの頃のような甘いサービスシーンは存在せず、コングの目を盗んで逃げだしても、コング以上に凄惨な生物に、この島はおおわれている。
ここからは、もう「ジュラシック・パーク」にこの島は、変身したかのようだ。映画クルーたちも遠慮なく殺されていく。せっかく感情移入できたキャラクターたちもジャクソン監督は無残に殺してしまうのか!と思ったほどだ。
ナオミ・ワッツは、このコミュニケーションできない野蛮な野性動物が、自らの体を犠牲にしても自分を守ってくれるところから信頼を寄せ始める…。恋愛感情なのではなく、自分の命を懸命に守ってくれた者への敬意かも知れない。コングとの奇妙な感情の中で、眠りにはいった二人の間に、恋に落ちた「戦場のピアニスト」が救いに現れる。
ナオミの心情は、「一時の安静状態」よりも、ピアニストの勇気と共に、この場を逃げ出すというリスクある「将来性」を選択してしまう。コングは怒り狂ってしまう。当然だろう。なぜか、コングのアジトであるにも関わらず、思わぬ敵に邪魔されてしまう点が気になる。
少々、難がある展開だが、コングは生け捕りにされ、ニューヨークに「見せ物」として、人間たちに拉致られてしまう。
そして世紀の見せ物ショーが始まる。そこには、ナオミではなく、偽者のブロンド女性の姿が…。コングは怒り、舞台を壊し、本物のナオミを求めて、街を壊しまわる。コングは、ブロンド女性を見るたびに「ルビーの指輪」の「寺尾聰」モードで探し回る。ただ、寺尾は女性をブン投げはしなかったが…。
なぜか、誰もいないところで、コングはナオミと再会する。セントラルパークの氷のはった池で、コングはナオミとデートをするが、「ペッパー警部」と化したUSアーミーはそっとしてはくれなかった。
ナオミを握ったまま、コングはより安全な場所を求め、エンパイア・ステートメント・ビルへよじ昇る。現在であると、人質の安全を考えるとムヤミに攻撃はできないはずだが、容赦なく攻撃が開始される。
そして映画はクライマックスへ。
悲しいシーンでヒロインは最大限の悲鳴を流して涙を誘うのであるが、「リング」で見せた絶叫をナオミは見せない。泣き叫ぶシーンだけがスローモーションでゆっくりと流れる。効果的なシーンだ。「タイタニック」でデカプリオが海に沈んでいくシーンと、コングが堕ちてゆくシーンが妙に似ている。観客はそれぞれ自分の経験の中から「絶叫」を心の中に響かせたことだろう…。
その悲しみの絶頂に、「戦場のピアニスト」の登場だ。抱きかかえられるナオミに、「コングの気持ちを考えろ!」と絶叫したくなったのは、ボクだけではないだろう。
女心がますますわからなくなる映画だった。