「CGMでメディアが変わる (2005年12月19日JAGAT講演抄録)」
デジタルコンテンツ2.0の未来
KandaNewsNetwork,Inc.代表取締役 神田敏晶
インターネットは第1次臨界点にある。情報量は指数関数的に増加し,スパムでメールは機能しない。情報の意味が問い直され始めている。CGM(消費者発信型メディア)の普及でアフィリエイトが盛んになり,消費者ではなく消費生産者が主流となる。信頼性と親近感のあるメディアと,総合的マスメディアの共存共栄の時代になる。
インターネットの第1次臨界点
インターネットの情報量は指数関数的に増加し,検索エンジンなしではもはや航海できない。ただ,調べるのにも時間が掛かるようになった。Googleのク
ローラーによるindex更新だけに2週間必要で,すべてのコンテンツを全網羅するには3カ月,さらに今後は半年から1年になるだろう。
ハードディスクの大容量化と低価格化で情報量が増加し,無料ディスクスペースが増加する。虎は死して皮を残すが,人類はサイトを残す時代になる。「ホーム
ページの後始末まで一切当社に用命ください」という葬儀ビジネスも当然出てくる。無料のサービスになればなるほど,自分の恥は一生どころか後生に残ること
になる。
インターネットビジネスはほとんどアメリカで発生し伝わってきたが,今はある意味で臨界点を超えて,同時多発的に日本でもいろいろなビジネスが起きている。
受信するメールの95%がスパムなので,得意先とは電話でやり取りするようになった。ブログもコメントスパムで機能しないので,トラフィックを集めるためだけになっている。
ブロードバンドからの脱却
回線が太く速くなったのでにいろいろな映像ビジネスが立ち上がったが,ほとんど機能していない。技術が先で,それに合わせてコンテンツを作ること自体がおかしい。
動画コンテンツにしても映画やテレビ番組の再配信が主流だが,もっと身近な映像があってもいい。しかし,だれもが知っている情報が本当に必要なのか。そこ
にある情報は真実なのか。新聞ならいいのか,ブログだから信用できないのか,2ちゃんねるだから信頼できないのか。そうは言えなくなってきている。
これからはすべて消費者側が判断する。嘘を流しているほうが悪いのではなく,嘘を見てしまう自分,嘘を判断できない自分のセンスを疑うべきかもしれない。判断材料としては,評論家や店員より詳しい知人のほうが信じられる。
常時接続,どこでも接続,いつでも接続,どれでも接続,何でも接続が生み出す真のユビキタス・ネットワーク社会インフラはまだ実現していない。
友達新聞,ご近所ニュースの購読などが今後は増えてくるのではないか。今すぐ得すること,便利になること,問題を解決してくれることが,ネットでは重要になる。
近くなるネットの距離感
デジタルコンテンツ2.0とは,マスメディアで実現できなかったコミュニケーションの改革である。
個人to個人コミュニケーションの増幅装置,CGM(Consumer Generated Media;消費者発信型メディア)が重要な位置を占める。アメリカ企業では,セールスプロモーションの中に,CGMに対する広告費用が計上され始めている。
フォークソノミー(Folksonomy;folks(人々)+taxonomy(分類学),ユーザがデータに「タグ」と呼ばれるメタデータを付けて登録
し,その「タグ」を共有することで,それぞれのデータにアクセスできるシステム)が注目を浴び,Web2.0世代のプラットフォームとコンテンツとの連携
プレーが今後は増えていくだろう。
視聴率重視から購買率重視に変わる。テレビのほうが購買率が高いので広告を出稿しているが,ブログや雑誌,新聞のほうが高くなるかもしれない。ニッチな商品になればなるほど,特定の個人のサイトだけで売れるという現象も出てくるだろう。
ネットの距離感が近くなっている。メディアやテレビ,映画というマスメディアの時代の距離感は,近接学理論で言う公共距離(360cm以上)だった。それ
がデスクトップパソコンによって社会距離(120〜360cm)になり,ノートパソコンになると個人距離(45〜120cm)まで近づいた。Webからブ
ログ,SNSと距離が縮まって,CGMでは密接距離(45cm以内)となった。
近すぎて気持ち悪いくらいだが,耳元で囁かれたら思わず買ってしまう距離感だ。
リーチと信頼性の2軸で考えてみると,マスメディアはリーチは非常に大きく,信頼できるメディアも非常に多い。Webはマスメディアほどのリーチはないし,信頼性も微妙である。
リアルコミュニケーションはリーチは小さいが,信頼性が高い。これらを補完するのがSNSやブログのCGMで,どんどん信頼性も上がっている。
消費者発信型メディア時代の到来
CGMのキーワードとして,?@メディア観の違い,?Aネット・コンシャスな時代の到来(Web2.0),?BブログツールやSNS,PodCastなどの普
及,?Cアフィリエイト,?DViral-Marketing(口コミで利用者を広げるマーケティング戦略),?Eナロー&ニッチ,?F広告からメッセージの共有
へ,の7つが挙げられる。
総務省の発表では,アフィリエイトやテキスト広告収入が2年で40倍になるという。働かなくても好きなことをどんどんパブリッシュして,それを買ってくれる人がいれば生活できる。口コミの拡大で,等身大のイベントが企業PRのメインになる可能性もある。
また,ナロー&ニッチでニュースの質が変わる。例えば,殺人事件をニュース番組から外すには,いったんハードディスクに録画して,タグ付け情報にすれば,殺人事件以外のニュースだけを見ることができる。
メディアは一番旬なもの,一番売れるものを追い掛けているが,消費者は売れるものが本当に買いたいものではない。自分の趣味や個性をRSSで流して,自分でタグを打って,「自分はこんな情報が欲しい」とパブリッシュしたほうが,本当に欲しい情報が入ってくるだろう。
これまで一般の消費者は「アマチュアで趣味」という枠組みに括られていたが,CGMにより「趣味だけどプロ並み」「アマチュアだけどビジネス」というエリアに属する消費者が出現し,なかには「プロでビジネス」というエリアに踏み込んでくる消費者も出てくる。
一方,従来は「プロでビジネス」のエリアに君臨していた企業から,お金より好きなことをやりたいからとフリーランスになって「趣味だけどプロ並み」や「アマチュアだけどビジネス」エリアに流れる人も出てきた。
CGMによって,従来の消費者という層がだんだん減少し,トフラーの言う消費生産者層が増えてくる社会になる。
結論:CGMでメディアが変わる
結論すると,CGMでメディアが変わる。人気ブログよりニッチブログへ移行し,人気よりも,自分と同じ思想や興味のあるブログを購読する,フォークソノミー型ブログへと変わるだろう。
そして,どこから購入しても同じなら,情報のお礼として購入する「アフィリエイトマナーのある社会」になる。
個人が好きなことでメシが食えるCGM社会では,プロ化するアマチュア,フリーランス化するプロが主流となり,装置&利権産業は崩壊する。
顧客の顔を見ないで上司の顔を見て仕事をしている人は負け,顧客の顔を見て仕事をしている人が最後は勝つ。そして,信頼性と親近感のあるメディアと,総合的マスメディアとの相互共存共栄の時代になっていくだろう。