2001年02月12日(月) 第893号 日刊!関西インターネットプレス より
http://www.digipre.com/kip/index.html
■本日のコラム「格安航空券でファーストクラスにハッキングするいくつかの方法」
月曜日担当:神田 敏晶KandaNewsNetworkビデオジャーナリスト
KNNポール神田です。
ファーストクラスの電源付きのベッドのような豪華なシートで、原稿を書いていま す。生まれてから2度目のファーストクラスですが、寝るのがもったいないくらいに 快適です!まるでラウンジが空を飛んでいるかのようです。インターネットアクセス もできるようですが、さすがに太平洋上ではアクセスポイントがないようですね。衛 星を使っているらしいのですが、うまくアクセスできません。やはり、今後はDHCPで Ethernetの機内LANが必要でしょう。
隣にはGEのVPがおり、トライアスロン談義で妙に話があったりしています。もちろ ん、ボクが通常どおりでファーストクラスになんて乗れるワケがありません。通常、 エコノミー料金の1往復半もの価格(3倍)だけあって本当に快適な旅であります。 今まで、ビジネスクラスへ、何度もアップグレードしていただくということはありましたが、ファーストクラスはなかなか遭遇することができませんでした。
日本〜アメリカ間の9時間というこの時間をいかに快適に過ごすというのは常に課題 でもあり、その過ごし方如何で、到着時の仕事をスムーズにこなすことができるので す。また、日本での慢性睡眠不足はいつも飛行機の旅を短くしてくれます。そういえ ば、ほとんど搭乗してから離陸するシーンをほとんど見たことがないほど、完璧に搭乗した時点で、いつも熟睡してしまっているからでしょう。
だから、いつもリクエストは、絶対に窓側なのです。通路側になると、窓側の人がト イレに行くたびに起こされてしまうからです。また、機内からの空の景色を写真でよ く撮影しますが、自然がデザインする雲や大地の美しさにいつも息を飲み込む思いを しています。こんな撮影も窓際でないと不可能なのです。
さらに、いつも、離陸して安定飛行に入ってからの食事を出されて、はじめて離陸に 気がつくというような状態なのです。また、いつもこのエコノミーの食事の、美味し くないのと、身動きできない状態で、まるでフォアグラになるかのように食料を食べ させられるのに、嫌気がさしていて、ある日、「えせベジタリアン宣言」をするようにしたのです。するとどうでしょう、ビジネスクラス、いやファーストクラス並のベ ジタリアンの食事がだされるようになりました。それからは、ずっと厳格なベジタリアンでとおしています。チキンやポークは食べられるという変なベジタリアンですが…(笑)。
通常、そんなエコノミー客に、ベジタリアンメニューは搭載していないのですが、搭乗の24時間前までにリクエストをすれば、「スペシャルメニュー」として対応してくれるのです。ベジタリアンメニューは、ビジネスクラスでもファーストクラスでも、同じクラスのものなので、エコノミーの肉料理とは格別の差があります。この原稿を読んでからは、日本人のエコノミーベジタリアンが大量に増えるのが、ちょっと心配ですが…。オススメです。
アップグレードの達人への道の、リクエストの基本は「24時間前の窓側とベジタリアンメニュー」なのです。これらを電話、もしくはFAXで送っておくのです。「閉所恐怖症、エコノミー症候群」などの診断リポートなどがあれば、さらに最強のアップグレードツールとなります。
さて、それだけでは、完全なるアップグレードは不可能なのです。大事なのは当日です。出発2時間前という一応のルールはありますが、アップグレードの最強ハッカーには、このルールは通用しません。出発前1時間に空港到着でいいのです。しかし、国際線の場合くれぐれも40分はないと、フライトそのものをロスしてしまう場合がありますのでホント気をつけてくださいね。
僕の場合、いつも大量の機材を伴っての移動なので、チェックインカウンターの行列を並んで、少しづつ進むだけでも大変です。そこで、出発60分を切った時、混雑するエコノミー用のカウンターを後目に、ファーストクラス用の赤い毛氈に堂々と並ぶのです。当然、ファーストクラスのフライト50分前なんて、誰も客がいないので、ガラガラなのです。また、担当もきっとエコノミーの混雑とは別に、”あくび”するほどの暇な状態です。その時がチャンスです。
そこで、ズルズルと荷物を持ち込み、おもむろにカウンターで遅れてきたことを丁寧に謝罪し、「窓際とベジタリアン」のことを明記した1枚のファクスを取り出して、下記のリクエストを送っていたことをカウンターで告げるのです。
さて、ここからが、各航空会社のCRM(顧客満足度マネージメント)の見せ所です。当 然、スタッフもエコノミーとはちがった訓練されたファーストクラスユーザーへのホ スピタリティを持った人たちです。日本航空やANA、シンガポールでは最大のパフォーマンスがえられるのですが、アメリカンやユナイテッドでは、それほどのパフォーマンスはありませんが、担当によっては違ってきます。今回はユナイテッドでした。
CRMを訓練された、ファーストクラスの担当者は、その日常とは違う、顧客の行動に先ほどまでの”あくび”を我慢していたモードとは180度の方向転換をします。
「お客様は、ベジタリアンメニューでないとだめなんでしょうか?」「ええ、宗教上の理由で肉がダメなんです」「お席も窓側をご希望なんですね?」「はい、一度眠ってしまうともう動けないのです」。さらに最近では、ある項目も追加するようにしました。
「フライト中にコンピュータで仕事することが多いのですが、前の席の人がリクライニングをいきなり倒して、ディスプレイが割れて、トラブルになったことがありますので、前席の人に、リクライニングの時に、”必ず”一声かけてくれるようにお伝えください」とのお願い文もFAXで送るようにしています。しかし、そのFAXがキチンと担当に届いているかなどは、ファーストクラスの担当者には一目瞭然です。その担当が処理しなければ、この目前の顧客のリクエストなどは、かなえられっこないことを、 重々彼女たちは、知っているからです。
まず、この書類を見た、ファーストクラスのカウンター担当者は、ベジタリアンメニューが用意されているかどうかの確認をとります。そして、次に窓際があいているかどうか?また、コンピュータの作業でクレームが発生しないために、前席がなく、通路の一番前の席が取られているかどうかの確認、などの3つの確認作業が一気に発生するのです。すでにこの時点で40分前です。税関の混雑を考えると、この謎のやたら明るい格安航空チケット客でも、早く通さなければならないという責任感が彼女に生じてきます。
その焦りを感じた瞬間、一気に大手にでるのです。
「あ、すいません、マイレージがあるので、こちらもお願いします」と、処理が終わりかけた頃に、マイレージカードをさしだします。さらに、「今、どのくらいたまっていますか?」などと、焦る気持ちとはうらはらに、どうでもいい質問や、「今、現地は何時ですかねえ?」などとトーシロの旅行者がよく聞くような質問をボロ、ポロと聞きます。すると彼女は、引きつった笑顔で答えながら、「少々、お待ちください」と不自然な笑顔を保ちながら、指はターミナルのキーボードをさかんにヒットしています。
しかし、作業に集中できない担当者は、パニック状態に近くなり、「お客様大変申し訳ないのですが、現在、空いているお席がないので、こちらで上司に相談いたして、しかるべき席を確保できるようにいたしますので、出発30分前ですので、ゲートに向かい、税関の手続きのほどをよろしくお願いします」。と返事をされました。この声を聞くと、ビジネス・コンシュノア・クラスのゲットはもう目前です。
これで、ほぼリーチをかけることができました。あとは、最後のツメを残すのみ。税関に入る前に手荷物検査があります。そこで、最終兵器の”三脚”が威力を発揮します。機内持ち込みの最大の長さは、50センチまで、僕の三脚は、60センチ。当然、機内持ち込みができません。税関では預かり証を発行できないので、搭乗カウンターで預かり証をもらえと言われます。
登場ゲートに到着します。すでに出発10分前。もう、エコノミー客もほとんどおらず、乗客のファイナルコールが終わろうとします。そこで、ボケた質問です。
「あのぉ、ボクの三脚ですが、ちゃんと飛行機のオーバーサイズに乗っているか確認できますか?」10分後の出発を前にして、またまたイレギュラーな質問に、登場担当者の責任感が動き始めます。
「とりあえず、すぐに搭乗していただけますか、追って確認いたします」。といわれ、ゲートに入ります。しかし、ボクはまだ搭乗券を持っていないので、さらに確認作業が必要なのです。するとほかの担当者が、「窓際のベジタリアンの方ですね?」 と助け舟をだしてくれました。「イエス!」と元気よく答えると、搭乗券なしでゲートへ案内されます。
そこでゲートの中の飛行機へのブリッジで、ビジネスクラス・ファーストクラスとエコノミーの天国と地獄の分かれ道に立たされるのです。もちろん、目指すは、ビジネス・ファーストクラスです。自信をもって、ビジネス・ファーストへの道を歩み、ドアのところで、外国人のフライトアテンダントに「Where is my inportant Tri-Pod?」と語りかけます。
寝耳に水のフライトアテンダントが確認作業に入ります。もう出発5分前です。
このボクの作業でいくつかのタスクが並列で動いていることを整理してみましょう
1.FAXのリクエストの確認
2.受付カウンターでの確認
3.税関でのオーバーサイズの荷物の確認
4.窓際&ベジタリアン顧客の座席とフードの確認
5.オーバーサイズの三脚の確認
6.各担当者からのこの顧客の情報のマージ
7.and more!
これらのことが、一気に重なった、顧客がボクなのです。
さて、いよいよ出発時間になりました。
そこで、最後の殺し文句です。
「今まで、このような事で三脚が行方不明になって非常に困ったことがあります。今度は”絶対”にだいじょうぶねすね?」と念を押します。彼女は「多分、大丈夫!」と答えます。しかし、「多分では困るのです!」と、胸のPRESSバッジを目立つように見せます。すると彼女はこいつは写真ジャーナリストかメディア関係かと思うと、事の重要性に気付いてくれます。
そこで、さらに「あなたのお名前は?」と聞き、多分大丈夫といった彼女の名前をメモしはじめます。すでに彼女は、ボクの思いのままにコントロールできるようになりました。「いつまで、ここで待てばいいのですか?」「すぐに確認できると思いますので、とりあえずこちらへ…」と前の席に誘導してくれました。
カーテンを一枚開けると、そこは12席しかないファーストクラス。そのうち2人しかいませんでした。要はガラガラ。
そして、離陸です。ファーストクラスをゲットできたのです。
その30分後、三脚は、モエ・ド・ドシャンドンのボトルと共に、やってくることとなりました。まさに王様のようになった気分です。窓際に席に座り、体の2倍のシートにつき、まるでベッドのようになるリクライニングをテストします。エコノミーと同じ飛行機とはとても思えません。同じ旅行でもさすがにここまで違うのかと痛感します。
もちろん、本当のファースト席で、GEのVPとリタイヤしたイギリスの元社長さんとも名刺交換して、いつでも遊びにこいとの確約をしてきました。彼らは阪神大震災の話に真剣に耳をかたむけてくれて、今まで知っていたこととちがう話や、宇宙旅行の話ですっかり、こちらの術中にはまってくれます。
また、食事では、フィレ・ミニョンが登場しましたが、さすがにボクは大量のサラダ料理。ベジタリアンだから仕方ないのですが、いつかは、あのフィレ・ミニョンを食べるぞ!と新しい目標設ができました。
とても、わがままで自分勝手な旅行術ですが、少し考えてみてください。
誰も不幸にはしていないはずです。各担当者も”あくび”するほど退屈な仕事から、適度の緊張感が与えられたはずです。ボクにとっては、こうやってコラムネタにもなるし、各航空会社のCRM調査のレポート作成には多大な経験を提供することができるでしょう。
サンフランシスコに到着しました。常識を破ることはいろいろとエキサイティングな時間を生み出してくれます。
税関では、みんな外国人の列に日本人が大挙して並んでいます。しかし、ボクはUSシチズンのガラガラの税関へ向かいます。赤いパスポートを手にして…。
もちろん、VISAやグリーンカードを持っているわけでもありません。しかし、税関の担当者は、実はすんなり通してくれるのです。
この税関のシステムは、混雑を緩和するために、USシチズンと外国人をわけてはいますが、ガラガラの時は、最後には、配分されるので、結果として、どこから税関を通ってもいいシステムになっているのです。
常識やルールを、いったん疑ってかかってみることによって、思わぬサービスを得られるということがありますが、何よりも退屈な飛行機な旅をハッキングする喜びのほうが面白いのです。こんどは、このきっかけを頼りに、今度は、GEの本社へVPめがけて、突撃取材が可能になりそうです。
なんだか、「デジタル業界のわらしべ長者」への長い長い道のりなのかもしれません。結果がすべてではなく、過程を楽しめることが非常に重要かとボクはいつも自分にいいきかしています。よいこのみなさんは、完全に自分の責任をおいて実施してく ださいね。KNNはこの件に関しては一切保証しかねません。成功を祈ります。