W.ハイゼンベルク 『部分と全体』素粒子物理学を読み解く みすず書房

https://amzn.to/3LxOPf7

4,950円

『部分と全体(Der Teil und das Ganze)』は、ドイツの物理学者『ヴェルナー・ハイゼンベルク』によって書かれた著作で、その内容は主に彼の物理学研究や哲学的考察、そして彼自身の人生の体験に関するものである。

序文に『湯川秀樹』博士(日本人初ノーベル物理学賞受賞)がよせているのが、哲人との対比。

理論物理学と哲学との対比

ニールス・ボーア  を ソクラテスに例え、

ヴェルナー・ハイゼンベルク を プラトンに例える。

他にも  アルベルト・アインシュタインエルヴィン・シュレーディンガー も20世紀初頭の物理学の英雄時代とした。

『素粒子物理学』にとって、1930年はまさに乱世の時代だったと物語る。

ソクラテスが『問いの重要性を重視』したのに対し、弟子のプラトンは『イデア(idea)の概念に焦点』を当てている。

■『素粒子物理学』とは…

素粒子物理学は、宇宙の最小単位である素粒子について研究する学問です。素粒子は、物質を構成する最小の粒子で、クォークやレプトンなど17種類があります。これらの粒子は、ボソンと呼ばれる粒子が媒介する力によって相互作用し、物質を形成しています。

例えば、水を考えます。水は、水分子(H2O)から構成されていますが、水分子はさらに小さな粒子である原子に分解されます。原子はさらに小さなクォークとレプトンに分解されます。これらの小さな粒子が、力によって結びついて、水分子を形成し、最終的に水を作り出しています。

素粒子物理学は、このような小さな粒子の相互作用を研究し、宇宙の物質の最小単位を理解しようとしています。高エネルギーの加速器を使用して、素粒子を高速に衝突させ、生成される新しい粒子を観測することで、宇宙の物質の構成要素を明らかにしています。

この研究は、宇宙の起源や、物質の性質を理解するための重要な手掛かりとなります。理解するための例えとして、水の構成要素を例に挙げましたが、実際には、非常に小さな世界で起こる複雑な現象を研究する学問である。

 


■量子学において重要なのは、『部分と全体』

  1. 世界は小さな部品(部分)でできている。例えば、時計は歯車や針などの小さな部品でできている。
  2. でも、部品だけを見ていては全体の姿が見えない。時計の部品をバラバラに見ても、時計がどう動くのかわからない。
  3. 全体を理解するには、部品がどうつながっているかを知る必要があり、時計の部品がどうやってつながって動くのかを知ると、時計全体がわかります。
  4. 科学でも同じです。小さな原子や素粒子を調べるだけでなく、それらがどうつながって宇宙や生命を作っているのかを考えることが大切
  5. つまり、小さいことと大きいこと、両方を見ることが大切。

この考え方は、難しい科学の話だけでなく、日常生活でも役立ちます。何かを理解しようとするときは、細かいところと全体の両方を見るように心がけましょう。

■ハイゼンベルクの『部分と全体』をビジネスにたとえる水平思考

「部分と全体」は、量子力学というミクロの世界を探求しながらも、それが全体像をどう形作るのか、科学という巨大なジグソーパズルと格闘するハイゼンベルク自身の物語でもあります。 これをビジネスという舞台に置き換えて、水平思考で考えてみると…。

1. スタートアップ:不確定性原理とイノベーション

ハイゼンベルクは、ミクロの世界では位置と運動量を同時に正確に測定できない「不確定性原理」を発見しました。これは、スタートアップの初期段階にも似ています。明確なビジネスモデルや市場予測は難しく、進むべき方向は不確定性に満ちています。しかし、この不確実性こそがイノベーションの源泉となります。常識にとらわれず、柔軟に方向転換することで、ブルーオーシャンへ辿り着ける可能性を秘めているのです。

2. 組織論:観察者の影響と企業文化

量子力学では、「観察」という行為自体が観測対象に影響を与えます。企業文化も同様で、経営者や社員の行動、価値観といった「観察」が、企業全体の雰囲気や業績に影響を与えます。トップダウンで厳格なルールを設けるよりも、社員一人ひとりの自主性や創造性を尊重する「観察」を心がけることで、より良い方向へ導けるかもしれません。

3. グローバル戦略:相補性原理と多様性の力

ハイゼンベルクは、量子力学では相反する概念が同時に成り立つ「相補性原理」も提唱しました。これは、グローバルビジネスにも通じます。画一的な戦略ではなく、各国の文化や商習慣に合わせたローカライズ戦略も重要です。一見矛盾するようにも思える多様な価値観や戦略を「補完」し合うことで、より大きな成功を収めることができるでしょう。

4. イノベーションのジレンマ:パラダイムシフトと未来予測

既存市場で成功を収めた企業が、新たな技術革新によって市場を失ってしまう「イノベーションのジレンマ」。これは、古典物理学から量子力学へのパラダイムシフトにも似ています。過去の成功体験にとらわれず、常に変化を恐れずにアンテナを張り、未来を予測することで、このジレンマを乗り越えられるかもしれません。
ガリレオ・ガリレイの『地動説』も同様。『地動説裁判』の『時間』がなければもっと科学は進化したのかも…。

ハイゼンベルクの洞察は、ミクロの世界だけでなく、ビジネスという複雑なシステムにも多くの示唆を与えてくれます。部分に集中するだけでなく、全体との関係性を常に意識することで、不確実な時代、VUCA時代を生き抜くヒントが見えてくるかもしれません。

 

■原子爆弾 エピソード

1941年、ハイゼンベルクはデンマークボーアを訪ね、「理論上開発は可能だが、技術的にも財政的にも困難であり、原爆はこの戦争には間に合わない」と伝え、あるメモを手渡した。ボーアはそのメモをアメリカハンス・ベーテに渡した。ベーテによると、それは原子炉の絵だった。ハイゼンベルクのシンクロトロンが、火災を起こし、懸命な消火活動によっても、1ヶ月間鎮火することはなかったため、世界中にニュースとして配信されたところ、その新聞記事を読んだアルバート・アインシュタインは、「ハイゼンベルクがとうとう、原子炉の開発に成功したので、原爆を作るのは時間の問題だ」と考えた。ボーアからベーテの手に渡ったハイゼンベルクのメモには重水炉のシェーマが記されており、これを見せられていたアインシュタインは、妄想にしか過ぎなかった原子爆弾開発競争を覚悟した。
ヴェルナー・ハイゼンベルク

 

  1. 量子力学の発展:
  2. 哲学的考察:
    • 物理学と哲学の境界について、そして科学がいかにして現実を理解し説明するかについての哲学的な議論が展開されている。実在論と道具主義、決定論と確率論などのテーマが扱われる。
  3. 科学者間の対話:
    • ハイゼンベルクは著書の中で、自身と他の著名な科学者(例えば、ニールス・ボーア、アルベルト・アインシュタイン、シュレーディンガーなど)との対話を再現している。これにより、科学的発見のプロセスや異なる見解の対立・調整がどのように行われたかが示される。
    • 1922年 アインシュタインの『一般相対性理論』の報告  ライプチッヒ
    • ミュンヘンの内乱などの政治的にも問題があった時期
    • 学問と政治の谷間に苦しめられる時代へ
    • 1925年 アインシュタインとハイゼンベルクとの対話
    • ボーア理論からの公式の立証。
    • 新しい量子力学
    • 実験による検証は理論の正しさの前提、しかしその全てを検証することはできない。
    • 物理学の真実性の判断基準についての対話
    • 1926年 コロンブスのアメリカ大陸新発見の偉大な点は、西回りのルートでインドへ行く歳に、地球が球形であるというアイデアを利用しなかったこと。
      引き返すことのできない食料で西へと向かったこと。つまり、大陸がなければ死んでしまう覚悟と決心。
      アインシュタインの『相対性理論』も同様。同時刻という概念を放棄し、反対論者をたくさん生むことに。
      原子の量子論において真の困難は人々の理解
    • シュレディンガーの公式の登場が相対性理論を立証させる。
      ボーアとシュレディンガーの対話と討論

 

  1. 第二次世界大戦の影響:
    • ハイゼンベルクは、戦時中の科学者としての経験やナチス・ドイツ下での研究活動についても語っている。戦争と科学の関係、そして倫理的な問題に関する考察が含まれている。
  2. 全体と部分の関係:
    • タイトルにもある「部分と全体」の観点から、個別の科学的発見がどのようにして統一的な理解や理論に結びつくかについての議論が行われている。これは科学の発展過程や方法論に関する洞察を提供する。

『部分と全体』は、単なる科学的な記録にとどまらず、科学者としてのハイゼンベルクの内省や、科学と人間の関係性についての深い洞察が詰まっている。

むしろ、この物理の初歩、基本的な知識もないままに人生を生きてきたことの『無知さ』をものすごくもったいなく感じることができる書である。
科学技術の現在進行系で、すでに100年も前の話の『理解』ができない『無知』を認め、残りの人生の救いを求めるつもりで読書をすすめる。わからなくて、当然なのでわかったことだけを『有知』として残す。
物理学における著名人の人となりにふれることができるハイゼンベルクの自叙伝でもある。