なんと今年もあの「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」が日本で開催されることとなりました。超うれしいです!
死ぬまでにぜひ、一度はみなさん、体験してみてくださいね。
すぐに予約がいっぱいになってしまうので、急いでください
DIDホームページにてhttp://www.dialoginthedark.com
第一次先行予約発売(7月31日〜8月14日開催分)
尚、運営のボランティア、視覚障害者のガイド役アルバイトも募集中。info@dialoginthedark.com まで。
DIDリリースNET http://www.egroups.co.jp/group/dialog-release
昨年のボクの体験レポートです。
「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」というイベントにかろうじて参加することができた。
http://www.dialoginthedark.com/
1ユニット7名で一日15ユニットで、105人、6日間で約600人しか体験できないイベントだ。日本で開催されたのは過去に5回。今回で6回目となる。
1999年11月 東京ビッグサイト 214名
2000年 5月 神戸ジーベックホール 522名
2000年12月 東北芸術工科大学 25名
2001年10月 仙台メディアパーク 600名
2002年10月 東京ドイツ文化センター 600名
2003年08月 新宿パークタワーホール 600名
と日本ではまだ総数3,000人しか体験できていないインスタレーションイベントである。
「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」とは、一体何なのか? 1989年にドイツのアンドレアス・ハイネッケ博士のアイデアで生まれた、暗闇を体験するインスタレーションである。実際にどのようなことになるのか? 文章で再現体験してみたい。
まず、新宿パークタワーホールの受付で1ユニット7名で簡単に自己紹介をおこなう。引率ガイドは目の見えないTさんだ。Tさんから白杖の持ち方を教わる。視覚がある間はなんともなく、まるでディズニーランドのアトラクションにでも入る気分だ。
引率のTさんの声をするほうにただついていけばいいというアドバイスで、次から次とユニットは、パークタワーホールの仮設の暗闇のカーテンをくぐっていく…。
最初のカーテンでかなりの視覚は奪われてしまった状況だ。そして次のカーテンでまったくの暗闇へと足を踏み入れる。しかし、次の瞬間、ユニットの不安げにたたく白杖の音しか聞こえない…。Tさんの声がはるかかなたに聞こえる。急いでついていきたいのだが、まったく何も見えない世界では、足を出すのがとても怖い。白杖のかすかな感覚をたより、足を踏み出す。一歩、一歩といっても1/4歩くらいしか歩いていない。
白杖が前の人の足らしきものに触れた。なんともはぐれていない自分を確認できただけでも安堵する。たった7人、いやTさんを入れて8人だけが暗闇の中に存在している…というか存在しているらしい…。感じられるものは、人の気配と数々の仕掛けがほどこされたこのホールだ。
なんとなく、映画の「キューブ」を体験しているような気分にもなり怖くなる。Tさんの声が「これから橋をわたります」と聞こえた。その声の方向に白杖をたよりにコツコツ床をたたきながら彷徨う。
何人かの体が自分とあたる。普段、当たると不快な気分になる他人の体がとても安心だ。自分の位置が正しいことが認識できる。
白杖の触感が変わり、かすかな傾斜を感じる。これが橋だな…とイメージできた。しかし、幅は傾斜角度はどのくらいの長さかははかりしれない。傾斜の臨界点を感じるとほっとした。仮設の橋でイメージ的には「人生ゲーム」の中に登場するような橋なのにわたり終えるまで不安だった。
序々に暗闇に慣れてきたが、いつまでたっても目は慣れてこない。完全な暗闇をここでは造作しているからだ。
足元には、どうやら草がしきつめてられる世界に変わった。ボクの感覚は夜の草原の想像を要求してきている。「ここはホテルの会場なんだ」と意識の中ではわかっていても、視覚が奪われていると他の感覚が過敏になり、想像力が増大している。
今度は近くでTさんの声が「ここに滝がありますよ〜」と響く。「さあ触れてみてください」とTさんの声がする。何人かの感嘆の声が響く「水〜!」「気持ちいい!」Tさんの声とは違う方向から、神の手がボクの手を誘う。「こっちですよ〜」女性の声と、ぬれた細い指先がボクの手を滝らしき方向へ導く…。
「水だ〜」。視覚だと触れるまでにたくさんの情報があるが、滝にどのように水が流れているのかわからぬまま触れる滝ははじめてだ。かなりヨコには広いが、水の量は薄くて、まるで滝のエッジにさわったような感覚だ。
「次は階段が3段あります〜」とTさんの声。目は慣れてこないが、体は視力に支配されなくなってきている。おぼつかないが白杖の使い方はすこしづつ慣れてきた。階段は3段。足元には点字ブロックがあり、僕の分厚いブーツでも感じることができた。
一段目、二段目、三段目、登ったあとにはこの先はどうなっているのか不安になる。登ると、車のクラクションや町の雑踏のリアルなサウンドが鳴り出した。とても怖い、ビルの屋上から飛び降りるような気分になって、足がすくむ…。
車の音や雑踏の音がこれほどまでに怖く感じたことはなかった。そのまま誘導され、今度は何かをさわらされる。金属でできたなだらかなカーブは、車をイメージさせてくれる。
Tさんが「全員、車のところに来れましたか〜?」「はい」「はーい」と7人の声が同時に響く。Tさんはこうやって点呼をとっているのだ。このイベントでは行方不明になると大変そうだ。すると、突然、大きなクラクションが鳴り、全員が腰が抜けそうになるほどビックリ! この演出には驚いてしまった。目の見えない人が、町では頻繁にこのような経験をしていると思うと、むやみにクラクションを鳴らさなくなるだろう。
「次はブランコに乗ってみましょう」Tさんの声が、次のプログラムを紹介する。いつのまにか、先頭に立っている僕は率先してブランコのチェーンを探す…が、そこにはチェーンがなく長い金属と木の感触があった。ブランコのイメージが公園にあるようなチェーンブランコではなく、二人でこぐラブチェアー型のブランコだ。相方を手招きで誘い、着席を確認してから漕いでみる。
視覚がないブランコは不思議な感覚だ。目をつぶっているだけではなく、天地がイメージできないだけに宇宙に浮かんでいるような状態だ。とても不思議な感覚が体を包む。自分は動かず、世界が揺れている感覚になる。少々、はまってしまいたかった気分だったが、正気を取り戻す。
「みなさん、疲れたでしょう? BARがあるのでちょっとやすんでいきませんか?」とTさんの声。Tさんの声は聞こえてはすぐに遠くにいってしまう。まるで、動物の親子みたいに、お母さんオオカミをおいかける子供のオオカミたちという図式でコツコツ杖をたたいて声を追いかける。
「チャリチャリーン」と、鉄でできた乾いたドアベルが店のドアをイメージさせる。ドアなどどこにもないのに、店のドアを開けて店内にはいった気がする。音だけなのに、店の中に確かにはいったことを感じた。
「いらっしゃいませ!」と渋く響くマスターの声がする。「みなさん、何がいいですか? ワインにお茶にビールになんでもありますよ!」
それぞれが好きなドリンクを注文するが、グラスをわたされると、そこに絶妙にボトルがきて、グラスの8分目くらい(?)で注ぐサービスが暗闇の中で行われる。誰かが、テーブルに腰をかけていたようで、注意をうながされ、イスに着席して乾杯。もちろん、うまく乾杯するのは難しい…。
闇の中で飲む酒の味はまた、美味で奇妙であり、そろそろこんな暗闇BARがあってもいいかと思った。マスターが、またいい声で「一曲披露させていただいていいでしょうか?」という。拍手がそれに答えると…。
低音の響く木管楽器の音が聞こえる。楽器の音の中にかすかにもれる息とブレスの息遣いまで聞こえる。聴覚はかなりシビアになっていることを感じることができる。スティービー・ワンダーの耳になった気分だ。
その後もいろいろとイベントが続くが、いよいよ最後にそのホールに出ると、薄暗いはずの部屋がとてもまぶしく見える小部屋に通される。
ようやく、落ち着いて、現実社会に戻る準備に入る。中にはセラピストの女性が、優しいマリア様のような声で「みなさん、いかがでしたか?」とお話を聞いてくださる。非日常な空間から助けられた思いで、リラックスできる。当然、いきなり通常の光を見てしまうと動揺する人が多いらしいので、この部屋で約20分、体験を共有する時間として、自分の感じたこと、人の感じたこと、また、クレヨンと画用紙が用意されており、それで好きなことを書くことができる。
まっくらな中での約30分間の体験だけど、視覚の持つ情報量とまた視覚によって失っている感覚を感じることができた。福祉目的にも有効なインスタレーションだが、いかに視覚中心で我々が生活を営んでおり、それが奪われたときに動揺しないためのトレーニングとしても価値がありそうだ。
何よりも、自分の感覚の変化を、酒でもドラッグでもないのに、これだけ自分の体の機能と対話していること自身がこのイベントの価値なのかもしれない。ドイツのハンブルグではこの2倍ほどのスペースで常設展示されているそうなので、ハンブルグに行くときはぜひ体験してみたい。
このイベントは、2005年の愛知万博あたりで登場するのかもしれないので、「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」という言葉を聴いた瞬間にすぐに応募してみて体験してください。
日本では、まだ3,000人ですが、ヨーロッパを中心に70都市で100万人が「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」の体験者となっているようです。
暗闇ではじめて見えることがあることに気づきを与えてくれるこのインスタレーション、ぜひ将来、何かの機会に体験してみてくださいね!