#WC26 NHK録画がネタバレになる時代〜『VAR』進化の先にあるスポーツ観戦のジレンマ

NHK録画がネタバレになる時代〜『VAR』進化の先にあるスポーツ観戦のジレンマ

サッカーW杯のベスト4がついに出揃った。いよいよ決勝である。

筆者は1998年のフランス大会では、光回線の展示会場からフランス現地のウェブサイトを更新していた。2002年の日韓大会では、モバイルパソコンとウェブカムを担いで韓国からストリーミング配信をおこなった。2006年のドイツ大会では通信会社のブログを更新し、2010年南アフリカ大会では衛星放送を横目に『Twitter(現X.com)』でライブ更新を続けた。2014年のブラジル大会からはクルマでの移動が難しくなり現地からの発信を断念したが、4年に一度のW杯やオリンピックは、今も『テクノロジーの進化のベンチマーク』として役立っている。


■誤審を覆す『VAR』とセンサー技術の進化


今大会でも『VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)』やサッカーボール内蔵の『センサーIMU(慣性計測ユニット)』による採点で、審判の判定がいくつも覆っている。さらに『スローインなどの5秒以内ルール』や、選手の安全のための給水タイム『ハイドレーションタイム』の導入により、ロスタイムは常に3分以上に及ぶようになった。

このハイドレーションタイムは、そのまま『広告』を差し込む絶好の時間枠となった。米国のFOXなどでのコマーシャルは、大会全体で800本以上という巨大な市場を生み出している。

トランプ大統領の要請によりレッドカードを受けた選手が出場できるという異例の采配もあった。決勝戦には、アメリカンフットボールの『スーパーボウル』さながらの『ハーフタイムショー』まで計画されており、ハーフタイムは25分という異例の長さになるという。すべてが、新たな『サッカーシステム』として実装されたW杯だと言えよう。




どうしても解せない『VAR』の判断



『VAR』は2018年のロシア大会から導入されているが、今大会でもイングランド戦でノルウェーのハーランド選手のゴールがペナルティ判定により取り消されたり、アルゼンチン戦でスイスのエンボロ選手がレッドカードで退場になったりと、議論を呼ぶ判定が相次いだ。


オフサイドの判定も、『IMU内蔵のボール』が蹴られた瞬間を起点に、3Dアニメーション化されたトラッキングカメラが検出する『半自動オフサイド技術(SAOT)』によっておこなわれている。会場にいる審判や選手の誰よりも正確に『オフサイド』を検出できるのだ。競技場ごとに設置された光学追跡カメラは12台から16台に増設され、オフサイド判定の精度は10cm水準にまで向上したという。
アディダスが製作した今大会の公式球『TRIONDA』には、重量わずか14gの『慣性計測装置(IMU)』が内蔵され、毎秒500回の頻度でボールの加速度・回転情報・タッチの瞬間をリアルタイムに記録している。


人間の目では確認不可能な『オフサイド』を事実として突きつけられたとき、われわれは『そうは見えなかった』という自分の脳の錯覚まで覆されてしまうのである。さらに審判の耳元には超小型カメラ『レフリーカム(Ref Cam)』が搭載され、レフリー本人の視点がすぐにリプレイされる、臨場感あふれる“ブレブレ映像”まで体験できるようになった。


NHK録画放送が抱えるジレンマ


一方で、こうした技術進化の先には皮肉な現象も生まれている。NHKのBSで放送された104試合の録画放送は、試合時間からかなりずれて放送されるため、すでに試合結果が流れたあとに録画放送が始まるというジレンマに視聴者は苦しめられた。
さらに、試合を2分間にまとめたハイライト動画が自動生成・配信されることで、試合開始前にすでに結果がわずか2分で視聴できてしまう。90分以上のフルタイムの試合そのものが、いわば『結果の検証タイム』と化してしまっているのだ。


誤審する『人間の審判』はもう不要なのか


ここまでくると、そもそも『VAR』を導入するのであれば、誤審をする人間のレフリーの存在そのものが不要になるのではないか、とさえ感じるようになった。
そう遠くないうちに、人間の目にはどう見てもオフサイドに見えるプレーでも、システムは『オフサイドではない』と判定するようなケースが出てくるはずだ。そのとき、スポーツとレフリーという存在に対して、テクノロジーがどこまでアシストすべきかという新たな問いが立ち上がってくるだろう。


やがて、スマホを複数台設置するだけでサッカーの審判が務まる時代が、案外すぐそこまで来ているのかもしれない。

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