P.73 今日IT革命は、産業革命における1820年の段階にある。
ジェームズ・ワットが1785年に蒸気機関を発明してから、ほとんどが、綿紡績機などの、プロセスのルーチン化を促進される利用方法でしか使われていなかった。蒸気船も発明されたが、帆船の市場をくつがえすほどではなかった。
しかし、50年後。1829年に蒸気機関車による鉄道が発明されてから、はじめて、産業革命への発展をとげるようになる。
鉄道は、「普通の人々の世界を広げた」ことであった。スピードや距離が変わることによって、物流、交流が進むだけでなく、蒸気機関とはまったく関係のない新産業を生んだのだ。
商業銀行や投資銀行、新聞。ワクチン。上下水道。電報。写真…
蒸気機関の発明からは想像できない多種多様なカンブリア紀に似た新産業の爆発紀を迎える。
鉄道狂時代は100年続き、次のエジソンの電気狂時代を誕生させる。そして、グラハム・ベルのAT&Tベル研究所が電話のために生み出した技術は「トランジスタ」と呼ばれ、電話ではなく「ラジオ」という新たなデバイスで開花する。そしてトランジスタを集積した回路は、LSIとなり、シリコンチップとなり、コンピュータというデバイスを普及させる。
このアナロジーは、まさに、1950年代のコンピュータから1980年代のパソコン。
そして、1990年代のインターネットから、2010年のソーシャルメディアというアナロジーへとつながる。
20世紀は、エジソンの発明から発した、音楽産業と映画産業というホンモノを複製した「ニセモノ産業」がエンターテインメント市場を築いた。
残念ながら21世紀初頭もそれらのエンタメ産業の地位はゆるがない。しかし、それらがネットワークで購入できたり、共有できたり、クラウド化を迎えて、形態やビジネスモデルを変え始めた…。
2002年、今から9年前に書かれた、ドラッカーが見た「ネクスト・ソサエティ」は今でも十分に通用する見識を持っている。当時のamazonやyahooの次をすでにいろいろと予測している。
この書で正解を見出すことはできないが、なんとなく新たな新産業の勃興する息吹を感じるための指南書としては最高の書だと思う。