ヘンリー・ペトロスキーの本。
「フォークの歯はなぜ4本になったか」
いろんな道具の誕生までの、歴史がわかる。
ドイツのデザイン工房、バウハウスは、「形態は機能に従う」。というが、
ヘンリー・ペトロスキーは、「形態は失敗に従う」という少しシニカルな視点で、工業デザインが失敗の失敗をリ・デザインしながら進化してきた事を示唆してくれる。
日常の「当たり前」の道具が、実は「当たり前でなかった」頃。
革命的なデザインで、使い勝手を大変革させてきた。
もしも、食卓にフォークがなかったならば、もしも、ジャンパーにファスナーがなかったならば、いろんなもしもを感じながら、広義の工業デザイナーやエンジニアの創意と工夫の上にボクたちの毎日が成立している。
フォークの語源は、ラテン語の熊手を意味するfurca
フォークは当初、肉をナイフで切る時の固定させるための調理ツールであり、2本の歯しかなかった。今でも肉調理用のフォークは2本歯。
西ヨーロッパで食卓用フォークの使用を促進したのは、10世紀の、ビザンチン帝国(東ローマ)の2人の王女だと言われている。神聖ローマ皇帝 オットー2世 967-983 の妻テオファヌと、ヴェネツィアのドージェ・ドメニコ・セルヴォの妻テオドラ。
11世紀には、食事用のフォークが、イタリアに伝わる。
フォークの前は手づかみで食べていたヨーロッパの人たち
ヨーロッパでは、スープはスプーンで飲むが、ナイフで肉をフォークで固定して切り分け、それを素手で食べるのが当たり前であった。
11世紀にイタリアでは普及したフォークも、フランスに渡るまでには16世紀までかかる。その間、500年間もフォークは、まったく必要とされていなかったのだ。
フォークの誕生は実用性というよりも、上流階級が優雅に食事を魅せるために生まれた儀礼ツールだったのだ。
1553年(日本では上杉謙信と武田信玄の川中島の合戦の頃)にフランスのアンリ2世王に嫁入りしたイタリア出身のカトリーヌ・ド・メディシスが、イタリア料理人と共に嫁入り道具としてフォークも伝わったといわれる。それまでフランスにはフォークを用いる文化はなかった
それでも、まだフォークは2本歯もしくは3本歯であった。
16世紀の2本歯フォークが18世紀の4本歯フォークになるまで
それが4本歯になるには、18世紀までかかる。
イタリアナポリのフェルディナンド4世がパスタを食べる際に、安全に口に運ばせるために、フォークが口の中でも安全になるように、フォークを改良させた。
針は口で刺さらないように、短くされ、2本歯は、4本歯になった。フォークで怪我をする人はすくなくなった。
儀礼的に生まれたフォークがいつしか、実用的になり、食事に欠かせないツールとなる。
調理用具としてのフォークが、食器としてのフォークへと進化したのだ。事前に切り分ける作業がなくなり、食べながら切り分けるという、食事へと変化する。
フォークとナイフとスプーンは、給仕と食の場を変えた
フォークとナイフとスプーンさえあれば、最初に切り分けることなく、個々人が好きなタイミングで、自分の好みのsizeで切り分けることが可能となった。
それまで、シェフがいても、給仕がいても、手でむさぼり食べていたヨーロッパ人の歴史は、フォークが登場することによって、一気に食事という栄養と狩りの報酬の共有の場が、コミュニケーションの場へと変革する。
優雅に食事ができるようになった事により、会話や酒をより楽しめるようになった。
バーベキューにも同様のことが言える。
焼いている人は、なかなか食べられないが、食べている人と一緒に焼くことを楽しむという意味では、料理や調理や給仕の場が、食べる場と同列に存在しているのだ。
フォークとナイフの2本で、切り分けする人と、食べる人の境をなくしたことは大きい。
また、フォークとナイフで手がふさがっていることにより、手づかみで食べることをやめるきっかけにもなった。
パスタをフォークで食べるきっかけとなったのは、パスタ好きであった当時のナポリ国王フェルディナンド4世(Ferdinando IV)が宮廷の晩餐会に自分の好きなパスタ料理を出せないか、と考えたところから始まる。 大切なお客さんに自分の大好物をぜひ召し上がっていただこうというワケだった。 そこで料理長のジョヴァンニ・スパダッチーノ(Giovanni Spadaccino)に命じて、もともとは料理を取り分けるために使われていたフォークを食器として使わせたそうだ。 このときに技術者のチェーザレ・スパダッチーニ(Cesare Spadaccini)が尖った3本歯のフォークを口に入れても安全で、よりパスタを食べやすくなるように4本歯に改良したといわれている。
19世紀、カーブを描いたフォークの登場!
弓なりに曲線カーブを描いたモデルがドイツで開発されたのは、19世紀になってからだ。
それが、現在の4本歯のフォークの原型となった。それまでは直線的だったのだ。
フォークは時には、ナイフの役目を果たし、温野菜などは、ナイフを使わず、フォークの背で切り分けることができ、曲線カーブの登場により、スプーン代わりに、切り分けた食べ物を乘せて食することもできるようになった。
現在の4本歯のフォークも、実はまだ改良の余地は残されていると思う。
当たり前のデザインを当たり前と思わない発想が重要だ。
現在の4本歯フォークよりも、エレガントで華麗な食べ方ができるフォークのデザインを、この人類の歴史から紐解いてみるのは楽しいかもしれない。
そこには、地球70億人のマーケットが待っているからだ。スマホ市場以上に大きい!
まえがき
第一章 フォークの歯はなぜ四本になったか
第二章 形は失敗にしたがう
第三章 批評家としての発明家
第四章 ピンからペーパークリップへ
第五章 瑣末のモノもあなどれない
第六章 ファスナーが生まれるまで
第七章 道具が道具を作る
第八章 増殖のパターン
第九章 流行とインダストリアル・デザイン
第十章 先行するモノの力
第十一章 開けるより封じる
第十二章 ちょっと変えて大儲け
第十三章 良が最良よりも良いとき
第十四章 つねに改良の余地がある
訳者あとがき
注
参考文献