映画「アーティスト」をメディア論的に読み解くと…。
映画「アーティスト」は、トーキー以前の映画がトーキー時代を迎える時代を描いている傑作だ。
https://4knn.tv/movie-the-artist/
そもそも、映画は舞台の進化、かつては映画の登場によって舞台(ブロードウェイ)の文化は冒涜されていると言われてきた。
また、レコード盤に対して演奏するアーティストはアーティストではないとも言われた(音楽はそれまでライブで演奏されるものであった)。ヴァイナルのレコードに一度だけ演奏したり歌ったものは、生の音楽ではない邪道として扱われていたという…。音楽は、繰り返し聴衆の前で演奏したり歌う、現在の「ライブ」が音楽だったのだ。
現在の映画の主流となったのはリュミエール兄弟の「シネマトグラフ(1895年、[my-age birthday=”18951228″]年前)が登場してからだ。そしてレコード産業は、エジソンの「蓄音機(1877年)」と思われがちだが、実際には、エミール・ベルリナーの「グラモフォン(1887年)」がディスク状のレコード盤を発明してからがスタートだった。
そして、販売会社の「ベルリーナ・グラモフォン」は、ビクタートーキングマシンを経てRCAレコードとなり、また、英国支店はグラモフォン・カンパニーを経てEMIへ、さらに、ドイツにおいてはドイツグラモフォンと、音楽業界に大きな影響を与える企業の源流となった。
「シネマトグラフ」登場から32年経過し、トーキー映画「ジャズ・シンガー(1927年,)」。これで当たったアル・ジョルスンは、翌年のトーキー映画「The Singing Fool (1928年)」でサウンドトラックの「Sonny Boy」を レコードで200万枚、楽譜で125万枚販売した。
「グラモフォン」登場から41年経過して、ついに映画産業とレコード産業がつながった。
また、「グラモフォン(1887年)」登場から61年かかり、ようやくレコード盤に33 回転のLP(1948年LongPlay 33.1/3rpm)盤やEP盤(1949年Extended Play45rpm)が登場するようになった。
「The Singing Fool (1928年)」の「Sonny Boy」のサウンドトラックからでも、約20年かかって、レコードはついに現在のLP盤へと進化して普及していく。
音楽市場とはレコード産業ではなく、楽譜販売産業だった
特筆するのは、楽譜の販売ビジネスが、レコード以前の音楽ビジネスの主流だったことだ。
Rhapsody In Blueの作曲者のジョージ・ガーシュウィンでさえ、デパートでピアノを弾きながら楽譜を売り、音楽出版社から給与をもらうという給与&印税(歩合)のビジネスモデルであった時代だ。
レコードメディアが普及していなかったのだから仕方がないだろうが、現在の作曲者は、レコードやCDになることを前提に作曲しているが、これからはそうとは限らないのだ。いやむしろ、月額課金用のサブスクリプション契約が主体となるとまた、音楽産業の構造が大きく変わろうとしているのだ。
同時に、レコード産業を拡大するには、ラジオの普及が大きくかかわっていった
ラジオは米ピッツバーグのKDKA局が1920年、米大統領選挙で「ハーディング」大統領の当選を伝えたのが最初の商業放送だった。今から[my-age birthday=”19201102″]年前だ。そして、そのラジオもトランジスタラジオが1950年代に一気に普及し、誰もが音楽を無料で親しめるようになった。ラジオ登場から約30年かけてパーソナルなトランジスタラジオで個人が音楽ヒットチャートを聞けるようになり、レコードを買い求めるというマーケティングにおけるヘビーローテション戦術が拡大していった。
そして、世界は1960年代の「テレビジョン」の普及を待っていた…。同時に映画業界はテレビ産業に負けないような、巨大スクリーンで、大スペクタル路線へとテレビとの差別化を図っていったのであった。
20世紀はコンテンツと共にメディアが「ディスパース(拡散)」して産業が発展を繰り返した。
反対に、21世紀は、メディアが「コンバージェンス(集束)」していき、コンテンツがメディアに依存しなくなり、FREEになってきた。リピート可能なコンテンツの価値はデフレーションを興し、再現不可能なコンテンツの価値はインフレーションを興し始めた。